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VICTOR JAZZ CAFE

2009年11月

布川俊樹『スタンダード・ジャズ・プロジェクト』

2009.10.21 VICJ-61613

Artist Review アーティストレビュー

ギタリスト布川俊樹は80年代初頭のデビューから現在に至るまで、フュージョン・グループ「VALIS」や「ブラッド・トリオ」など自身のグループを率いての活動や、ウルトラマンの音楽をジャズにアレンジした『ウルトラマンジャズ』プロジェクトなどで、日本のジャズ・ギター・シーンに常に刺激を与え続けてきました。また、そのアーティストとしての活動の一方、音楽大学のジャズ科で教鞭をとる教育者でもあります。
(詳しいプロフィールは「布川俊樹ジャズ・ジャングル」サイトで)

布川はデビュー直後から、そのギター・テクニックだけでなく理論派としても知られ、ジャズ誌やギター誌でも奏法講座などを執筆し、また数多くのジャズ・ギター教則本/CD/DVDをリリースしてきました。実はそれらがことごとくベストセラーになっていることは知る人ぞ知る事実で、アマチュア(だけでなく同業者)ジャズ・ギタリストからは絶大な信頼を寄せられてきました。それらの教材の多くは「スタンダード」を題材にし、基礎から最先端までさまざまなジャズ・ギター奏法・理論を教授するものですが、その模範演奏CD/DVDは「教材」にもかかわらず「観賞用」として、つまりギターを弾かない人にまで聴かれていたりもするというハイ・クォリティなものだったのです。

ですからスタンダード曲集のアルバムが出ていてもおかしくないのですが、実は今回が初めてのアルバムになりました。これまでアルバムはその時どきの自身の音楽を優先させてきたからということですが、だから『スタンダード・ジャズ・プロジェクト』は自身の「作品」として初のスタンダード集。まさに「満を持して」の「待望の」アルバムとなりました。

さて、スタンダード曲の演奏についてですが、アプローチには大きく分けてふたつの方法があると思います。ひとつは「直球勝負」。曲のメロディはもちろん、コードなどもごく一般的なものを用いて、あえて定型の枠の中でどこまでやれるかというアプローチ。つまり、ジャズ・ミュージシャンにとっての聴かせどころはあくまでアドリブ・ソロであり、スタンダードは聴き手にわかりやすい素材であるという考え方。もうひとつは「変化球」。分かりやす過ぎる対比ですが、こちらは曲の枠組みを変える、つまりアレンジすることも含めて、ミュージシャンの表現とするアプローチですね。こちらにしてもスタンダードはわかりやすい素材なわけです。

布川はここではその両方でアプローチ。ヘッド・アレンジ(その場でのアレンジ)でアドリブに全力を注ぐトラックあり、原曲をほどよく残しながらも(原曲がわからないとスタンダード集にはならないですからね)大胆なアレンジありの、「直球」「変化球」の配球(?)のよいスタンダード集となっています。

では、布川本人からのコメントも紹介しながら、聴いていきましょう。

1.オン・ア・クリア・デイ
これは布川が大学1年の時、最初のライヴで演奏した曲だそうです。今回はその時と同じアレンジと言われてもおかしくないほどのストレートな構成。まさにジャム・セッションの定型構成と言ってもいいほどの仕掛けのなさ(リーダーのギターによるテーマからソロ、ピアノへとソロを回し、ベースとドラムスの4バースからエンド・テーマへ)ですが、演奏の内容はとてもすばらしい。鮮やかなテーマ演奏に始まり、ブレイクでのピックアップ・ソロのカッコよさは特筆もの。4人全員が一丸となっての疾走感は実に心地よく、ジャズ・スタンダード演奏の「直球勝負」の魅力が満載です。メンバー全員のソロで自己紹介という、オープニングにふさわしい1曲。

2.モナ・リザ
ナット・キング・コールの歌唱がよく知られている曲。ミディアム・スウィングのテンポに乗り、ここでは布川はていねいに歌心あふれるフレイズでアプローチ。

3.ムーン・リヴァー
映画「ティファニーで朝食を」のテーマとして有名ですが、これは前の2曲と異なり、大胆にアレンジされています。カチッとしたボサ・ノヴァ調のビートを基調に、コードやリズムにたくさんの仕掛けを施し、随所に織り込まれる「キメ」が印象的で、最後まで耳を離させません。布川はフュージョン・グループも率いていただけあって、こういった重層的なアレンジはお手のもの。ジャズ・オンリーのプレイヤーだったらこういう発想はできないでしょう。

4.枯葉
ザ・キング・オブ・ジャズ・スタンダードであります。これまで大巨匠から素人に至るまで何万人もが演奏してきたであろう曲。布川は「さすがにそのままではちょっと恥ずかしい」とコメントしつつアレンジしていますが、一般的な「枯葉」のイメージを崩すようなところはない、趣味のよい手の加え方。ドラマチックに盛り上がっていく展開は、この曲が持っている魅力をさらに引き出していますね。

5.おいしい水
アントニオ・カルロス・ジョビン作曲のボサ・ノヴァ曲。ここではリズムにたくさんの仕掛けを施しています。ボサ・ノヴァの色はなく、ファンキー・ジャズというようなアレンジで、アコースティック編成であることを忘れてしまうようなハードな部分も。バンド全員が熱く盛り上がり、布川はバリバリと弾きまくっています。こんな「おいしい水」は聴いたことがない。

6.ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ
スティーヴィー・ワンダー作曲のこの曲はジャズ・スタンダードというわけではありませんが、ここに並んでいても違和感はないですね。それどころか、これからスタンダードとなるのではないかと思える名曲だと、改めて感じさせてくれるごきげんな演奏。転調が繰り返されるアレンジが美しい。布川はアコースティック・ギター。

7.ラウンド・ミッドナイト
テーマはソロ・ギターで、まずこれがすばらしい。テクニックはもちろんですが、実に聴かせるバラードなのです。サビからバンドが静かに入り、そして定番のブリッジの「キメ」の後は、4倍テンポで疾走するという大胆なアレンジ。これはマイルス・デイヴィスの60年代後半のアレンジを下敷きにしたもの。そしてエンド・テーマでもとに戻って、定番のアウトロまで付く大作です。バラード、そしてバリバリのアップテンポと、布川のさまざまなギター・プレイをたっぷり楽しめるトラックとなっています。

8.K.I.ブルース
スタンダード集にブルースは必要ということで、またブルースならスタンダードじゃなくてもいいか、ということで布川オリジナルのブルースを1曲、ミディアム・テンポでじっくりと。高瀬裕のベースのロング・ソロをフィーチャー。

9.アワ・ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ
アレンジなし、リハーサルなし。スタッフから、ガーシュウィンの曲もいいねという話が出て、その場にあった「スタンダード・ジャズ・ハンドブック」という楽譜集から曲を決めてやることになったとそうです。たまたまこの曲にはあまりなじみのなかった布川はそれを見て演奏、他のメンバーにとっては手慣れた曲なので楽譜もなしで。まるでライヴハウスで客のリクエストに応えてのセッションみたい。メンバー全員の実力と経験がいかんなく発揮された名演となりました。

10.四月の想い出
この曲はギターとピアノのデュオ。実はこちらもまったくのノー・リハーサル。「ワルツの曲がないから、何か入れようか」と、やってみたものだそうです。とはいえこれはもともと4拍子の曲。それを構成も決めず、楽譜もなしで、「3拍子で」という打ち合わせだけで始めた演奏がこんなに美しく完成されるなんて驚き。1テイクで終り。

11.ザ・ニアネス・オブ・ユー
最後はアコースティック・ギターの美しい無伴奏ソロ。7曲め「ラウンド・ミッドナイト」で聴かせたようなジャズ・スタイルとはちょっと変えて、響きを生かした、実に美しい演奏でアルバムは幕を閉じます。…もう1回最初から聴こうかな。

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