今月紹介のアルバムは、「キング・オブ・ポップ」の愛唱曲のジャズ・アレンジ・カヴァー集。当店のお客さまならみなさん「キング・オブ・ポップ」はご存知だとは思いますが、一応説明すると先般急死したマイケル・ジャクソンのこと。「ジャクソン5」のリード・ヴォーカリストとしてデビュー。1960年代末から数々の大ヒットを飛ばし、70年代末のソロ作『オフ・ザ・ウォール』の特大ヒット以降、世界で最も有名なアーティストのひとりとなりました。90年代以降はゴシップ報道が目立っていましたが、音楽的功績はすばらしく、長きにわたって数々の名曲を世に送り出してきました(改めて言うまでもありませんでしたね)。
流行音楽の世界にありながら、マイケル・ジャクソンの音楽は昔の曲でも色あせることなく、時代を超えてカヴァーされています。ジャズ系ミュージシャンも例外ではなく、あのマイルス・デイヴィスをはじめ、多くのミュージシャンがとり上げてきました。そんな中からここでは近年の8曲と、このアルバムのために新録音された音源3曲の全11曲が収録されています。発売元はビクターエンタテインメントですが、ビクター以外のアーティストの曲も収録されており、幅広く「キング・オブ・ポップ」の楽曲の魅力、そしてジャズ・カヴァーのおもしろさに触れることができる好企画となっています。
では、1曲ずつ聴いていきましょう。
1. アイ・ウォント・ユー・バック
まずは、このサイトではすっかりおなじみの熱帯JAZZ楽団の演奏。女性ヴォーカルをフィーチャーしての「熱帯サウンド」炸裂。熱いラテン・ビートにビシッと決まったホーン・アンサンブル。これは踊っちゃうね。「アイ・ウォント・ユー・バック(帰ってほしいの)」は、69年のジャクソン5のメジャー・デビュー曲。全米チャート1位を獲得した大ヒット。
2. ヒューマン・ネイチャー
この曲はなんと言っても、マイルス・デイヴィスがとり上げた[『ユア・アンダー・アレスト』(85年)]ことで(ジャズしか聞かない)ジャズ・ファンにもよく知られていると思います。マイルスはトランペットでドラマチックに歌い上げていましたが、この土岐麻子はさらりと歌います。いろんな聞かせ方ができる曲なんだな。83年のマイケル『スリラー』がオリジナル。
3. ロック・ウィズ・ユー
TOKUが大人の味わいの渋いヴォーカルとフリューゲルホーンを聴かせます。こうやって並んでいるとなかなか渋い選曲。オリジナルは79年マイケル『オフ・ザ・ウォール』。
4. ベンのテーマ
noonによる新録音。ピアノとのデュオでじっくりと聞かせます。72年の映画『ベン』(ねずみが出てくるあの映画)のテーマ曲。マイケルは当時14歳だった。
5. ABC
これはジャクソン5の曲。70年の全米1位という、もうずいぶん前の曲だけど、今もテレビCMに使われていたりと、時代を超えて魅力を感じさせるごきげんな曲だね。メイシオ・パーカーは例によって強烈ファンキーに吹きまくってます。ジャクソン5はジェイムズ・ブラウン(メイシオ在籍)の音楽にかなり影響を受けていたなんてことを考えながら聞くと、またおもしろいね。
6. アナザー・パート・オブ・ミー
熱帯JAZZ楽団の小編成別動隊である、熱帯ジャズ倶楽部の演奏。激しいパーカッションと熱いギター・ソロ(野呂一生)が印象的だ。オリジナルは87年マイケル『バッド』に収録。あちらも情熱的だけど、それに負けない強さがあるね。
7. ラ・ラ・ミーンズ・アイ・ラヴ・ユー
フライド・プライドの演奏。この曲はもともとヴォーカル・グループのデルフォニックスが68年にヒットさせた曲なんですが、マイケル・ジャクソンはジャクソン5で歌っていました。「ララは愛の言葉」が当時の日本語タイトル。
8. アイ・ジャスト・キャント・ストップ・ラヴィング・ユー
ホメロ&パメラは、ニューヨーク在住ブラジリアン・ギタリストのホメロ・ルバンボとシンガーのパメラ・ドリッグスによる夫婦ユニット。これまたオリジナルとは違う表情だね。『バッド』収録。ちなみにマイケルの日本語タイトルは「キャント・ストップ・ラヴィング・ユー」。
9. ワーキン・デイ・アンド・ナイト
ギタリスト・小沼ようすけの演奏。ダンサブルなビートに乗せたオクターヴ奏法によるテーマが印象的。レトロな音色のシンセ・ソロもおもしろい。オリジナルはマイケル79年の『オフ・ザ・ウォール』に収録。
10. バッド
フライド・プライドによる新録音。あの激しいサウンドを、ギター1本で表現しているのは驚異的で、とてもユニーク。
11. ユー・アー・ノット・アローン
noonによる新録音。しっとりと歌い上げるバラード。伸びやかでくせのない素直なnoonの歌声が実に心地よい。マイケルの95年『ヒストリー』で発表された曲だけど、シングルカットの際に(当時流行していた)たくさんのリミックス・ヴァージョンが出たことが印象に残っている人も多いのでは。作詞・作曲はR・ケリーによるもの。
12. アイル・ビー・ゼア
これはジャクソン5の曲。ウィリアム・ギャリソンの歌うようなハーモニカをたっぷりとお楽しみください。この曲は70年の全米1位。ジャクソン5は70年にメジャー・デビューして4作連続チャート1位というとんでもない怪物グループだったんです。
と、全曲にオリジナルの発表年を書いたのは、マイケル・ジャクソンがいかに長い間すばらしい楽曲を作り出してきたかを確認したかったため。まさにキング・オブ・ポップ。ほんとに「アイ・ウォント・ユー・バック」だね。