このShima & Shikou DUOは、その名のとおり島裕介(シマ)と伊藤志宏(シコウ)の二人組。トランペットとピアノのデュオというのは、めずらしいというほどのものではないけど、この編成で「グループとして活動」しているのはめずらしいのではないかな。まずはプロフィールを見てみようか。
グループはファースト・アルバム『雨の246』を2006年に発売、翌年にはセカンド・アルバムをリリースし、インディーズながらタワーレコードのJ-ジャズ・チャート1位を獲得。となれば3枚目となる今回のアルバムは、「待望の」メジャー・デビューということ。
トランペットの島は、2003年からプロ活動を開始。これまで100枚近くのアルバムに参加してきている。ブログにまめなリストがあるが、その活動範囲はジャズからポップスまで幅広く、よく知られているところではEGO-WRAPPIN' や一青窈、小泉今日子の名前がある。
一方、ピアノの伊藤は5歳からピアノを始め、14歳の時には東京交響楽団と共演したという、クラシックのいわばエリート。しかし大学に入ってから一転、独学でジャズを始め、いつのまにかその方面でプロ活動を始めていたという。Shima & Shikou DUOの他には、やはり独学で始めたというボタン・アコーディオンとクラリネットのデュオ「audace」を2年前に結成して活動中。デュオという編成が好きなのね。また、UAや一青窈のレコーディングやライヴのサポートもしている実力派でもある。
そんなふたりによるShima & Shikou DUOは、宣伝文によれば「クラブ系で人気」らしい。クラブにはなじみが薄いマスターとしては、リズミックでファンキーでダンサブルな感じだろうな、でもこの編成でどうやって踊らせるのかな?などと思いつつ、プレイ・ボタンを押すと...。
え? これがクラブで人気なの? これはモダン・ジャズ・ファンが全く抵抗なく受け入れるであろう「ジャズ」です。これ「クラブ系」と付けなくて(付けない方が?)いいです。ってことは「クラブ系」と言われているものもけっこう変わって来てるのね、と先入観を反省。
メジャー・デビューということもあるのだろう、オリジナル曲からジャズ・スタンダードまで入った、にぎやかな内容。ふたりだけなんだけど、さまざまな表情がある。特にトランペットの音が、ストレートな音からエコーをたっぷり効かせた音まで、もちろんミュートもありと、1曲ごとに違った録り方・作り方をしていておもしろい。
楽曲も、流れるような1分半の「暁光」から、ソロもたっぷりでワイルドな長い演奏「Tokyo デンジャラス」、熱いフリー・インプロヴィゼーション「Poetry」、ゲスト・ヴォーカル入りの「Over The Rainbow」など、変化に富んでいて聴き始めたら最後まで耳を引きつけ続けて離さない。
マスターとしては、ジャズ・スタンダードよりもオリジナル曲の活きの良さをすごく感じましたね。タイトルも「暁光」「残夏」「おどりば~放課後の練習~」「湯気の中で」など、日本語で付けられていると、聴いたイメージもいわゆる「ジャズ」とはけっこう違っていておもしろい。なんか「日本的」に感じてくるんだね。こんなところも実に個性的だ。実際、「××の影響を色濃く受けた」みたいなところは感じないし、立ち位置がいわゆるモダン・ジャズとは違う(いわゆるクラブはもちろんFuji Rock Fesにも出演)ところが音楽にもよく表れていると思う。そもそもデュオは、「何でもあり」の「何でもできる」編成だから、それを選んだというところにすでに自由な、枠にとらわれない意識があるんだね。
音楽の自由、スタイルの解放なんていうと固いかもしれないけど、そんなところをさらりと感じさせてくれるおもしろいグループの登場だ。