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VICTOR JAZZ CAFE

2009年03月

塩谷哲 『ソロ・ピアノ=ソロ・ソルト』 2009年3月

2009.03.04 VICJ-61590

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Artist Review アーティストレビュー

塩谷哲(しおのやさとる)はポップス、ジャズ、クラシックとジャンルを飛び越えて作編曲や演奏活動を精力的に続けているが、近年では小曽根真とのピアノ・デュオや自身のピアノ・トリオでのアルバム・リリースが続き、「ジャズ・ピアニスト」として注目が集まってきている。そして今回はキャリア初のソロ・ピアノ・アルバム。いったいどんなアプローチとなるのか、とても気になるところ。

ビアノに限らずソロ(独奏)による演奏は、ジャズの魅力のひとつである「インタープレイ」、つまり演奏者どおしの、演奏のその場その場で発生するやりとり、相互刺激といったものがないものになる。また、それでもライヴなら観客が何らかの影響を与えるし、やり直しのきかない「場」の要素も演奏に入り込む。だけど今作のようなスタジオ録音だとそれもない。つまり純粋な「個人の表現」なのね。隅から隅まで100%コントロールできる音楽。もちろん「即興」という要素があれば、それは「ジャズ」なんだけど、今回のアルバムは、即興じゃない部分も多々ある。編成はすべてソロ・ピアノだけど、曲はいろいろなタイプが混在する。というものだから、いわゆる「ジャズ」として構えて聴くと、ちょっと違和感があるかも(待てよ、最初からどこにもジャズなんて書いてないじゃないか)。

「たまたま」最近ジャズ寄りの活動が多いから、先入観を持ってしまったが、つまりこれは「ピアニスト/音楽家」塩谷哲を楽しむものなのね。塩谷の経歴を見れば、いわゆる「ジャズ・ピアニスト」とは違うスタンスであることがよく判る。芸大作曲科を中退し、20歳の頃からサルサ・グループ「オルケスタ・デル・ソル」のピアニストとして世界各地で活躍。93年からソロ活動を始め、フュージョンの「SALT BAND」、シング・ライク・トーキングの佐藤竹善とのユニット「SALT & SUGAR」を始め多くのヴォーカリストとの共演、コンサート・シリーズ「クール・クラシックス」出演、2002年には本田雅人らと「フォー・オブ・ア・カインド」結成。03年以降は塩谷哲トリオを中心に、ピアノを前面に出しての活動をメインにし、ピアノ・トリオで3枚、小曽根真とのデュオ・ピアノ・アルバムもリリース。その一方で今年はNHK「名曲アルバム」のアレンジを手がけるなど、この幅の広さを見れば、「すべてをコントロールできる」ソロ・ピアノ・アルバムを作るにあたって、例えば「スタンダード集」、あるいは「即興集」のようないわゆるジャズ・ソロ・ピアノにならない方がむしろ自然に思えるが、どうだろう。

では、曲ごとの簡単な紹介を。

TRACK LISTING
1. スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット
ジャコ・パストリアス作曲。初出はフュージョン・グループ「ウェザー・リポート」の1980年のアルバム『ナイト・パッセージ』だが、ジャコはウェザー・リポート脱退後も自身のビッグバンドで取り上げるなど、ジャコの代表曲のひとつとして知られる。多くのカヴァー・ヴァージョンが作られ、今やすっかりジャズ・スタンダードと言ってもいいほど。
2. セ・メルヴェイユ
1曲目のトリオに、ドラムスとストリングスをバックに加えてのワルツ。ストリングス・アレンジは彼女自身によるもの。
3. ドント・ノウ・ホワイ
ヴォーカリスト、ノラ・ジョーンズの大ヒット曲をカヴァー。2002年度のグラミー賞「Song of The Year」を受賞している。ちなみにジャズ系では、パット・メセニーのソロ・ギター・アルバム『ワン・クワイエット・ナイト』での演奏が記憶に新しい。ここまでの2曲は、いわゆるソロ・ジャズ・ピアノの流儀だが、この先から塩谷独自の世界が広がってくる。
4. 2つの「メヌエット」
場面はちょっと変わって、バッハ。誰でも知ってるメロディだからこそ、いじり甲斐があるということか。
5. ウォーク・アローン
これは同業者である(そして近作の共演者)小曽根真のピアノ・トリオ+ストリングス編成のアルバム『ウォーク・アローン』(92年)に収録されている曲。この選択は当然ながら共演の影響からなんだろうが、ちょっと意外な気も。
6. ミスター・マドンナ
塩谷のオリジナル。力強くブルージーな味わいもある、本作一番の元気曲。「レディ・マドンナ」のメロディもちょこっと顔を出す。
7. 「インヴェンション」より第1番バッハ
「メヌエット」同様の試み。
8. 13.組曲「工場長の小さな憂鬱」(純白の野心/森に棲む妖精たちのラベル貼り/かそけきものたちの声/慈愛/うつつと夢/ニンフの囁き/彩られる明日へ)
全7パートにおよぶオリジナルの組曲。ユニークなタイトルから想像力を全開にして浸ろう。
9. プレシャスネス
響きを生かしたゆったりとしたオリジナルで幕を閉じる。

繰り返すが、今作はアタマにジャズとかクラシックとかが付かない「ピアニスト/音楽家」塩谷哲を楽しむもの。ゴリゴリのジャズ・ピアニスト塩谷は別のアルバムを聴いていただくことにして、ここではそのユニークな視点を楽しもう。ジャズ(のみの)ファンもきっと世界が広がるはず。

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