Q129 ID dn3lun5さんの質問 2015年6月1日
今日、今、マスターが気になっているCDは何? 考えずに率直に教えて。
dn3lun5さん
いらっしゃいませ。
ああ、これは「抜き打ちテスト」なんですね。はい、では正直にお伝えしましょう。今(2015年5月)気にしているのは、チャーリー・パーカー(アルト・サックス)の『ウィズ・ストリングス』。これは今から65年ほど前、パーカーが1949年と50年に録音した音源です。当時はそれぞれがSPと10インチLPアルバムとしてリリースされました。内容はそのタイトルどおり、バックにストリングス(弦楽)をしたがえての演奏で、「即興命」のビ・バップの旗頭であったパーカーにとっては異色の作品とされています。当時は賛否両論。まあ、しっかりとアレンジされたバックにのっての演奏ですから、自由奔放さに縛りがかかるのは当然ながら、逆にその歌心が際立ってすばらしいというのがいまでは定着した評価になっていると思います。
まあそんなアルバムなのですが、それを引っ張り出して今聴き直しているというわけではなくて、このアルバムの『Deluxe Edition』というCD2枚組がちょっと前に出たんです。なんとそこには「初発表」となる音源がCD1枚分もあるんです! パーカーの音源は「ジャズの遺産」ですから、これまで失敗テイクはもちろん、ほんのわずかな「切れ端」でもすべてリリースされてきたと思われていました。たぶん出している側もそう思っていたことでしょう。でなければ今まで各レーベルから出ていた「コンプリート」セットのタイトルは嘘になってしまいますものね。でもまだあったのです。
しかもその内容が興味深い。「即興命」のパーカーですから失敗テイクが多数あることはめずらしくないのですが、ここに入っている「ジャスト・フレンズ」の失敗テイク4つを連続して聴くと、冒頭のフレイズがどんどん練られて完成していくのがわかるのです。パーカーの場合は最初のテイクの閃きが最高で、やればやるほど悪くなるというのが「通説」になっています。でもここでは明らかにやればやるほどよくなっていき、そして最終テイクがマスターとなっていたことが判明しました。他にも別テイクを聴くと、これまで発表されていた演奏はじつは大幅にカット編集されていたものだったことがわかったりと、新しい発見が満載なのです。
発表から65年、パーカー死去から60年経ってもまだ「発掘」音源があったなんて驚きです。そしてこれがこれまでの「通説」を変えるかもしれないんですから、これはまさに考古学です。楽しい研究のネタがまたひとつ増えました。これもジャズのひとつの楽しみ方ですね。

写真:チャーリー・パーカー『With Strings Deluxe Edition』(Verve)