Q121 ID sakafuku33さんの質問 2014年10月1日
昔のジャズのレコードの録音はどんな機材で行なわれていたの?
sakafuku33さん
いらっしゃいませ。
CDを聴く時、「あのCDは録音がいい」などと話題にすることはよくありますが、そのもともとの録音方法については意外と知られていないのではないでしょうか。21世紀の現在、「マスター音源」は、デジタルデータで記録されているのが一般的です。データですので昔のように「マスター・テープ」とは言わなくなりましたが、そこにいたるまでに「マスター」はさまざまに変わってきました。
さて、世界最初のジャズのレコードは1917年に録音されたものと言われます。これはジャズとして世界初であって、レコードはそれ以前からありました。そのころの録音方法は、演奏者が集音メガホンに向かって音を出し、メガホンの先にある針が音の振動を拾って、回転するレコードの原盤に溝を掘って(カッティング)記録。それを複製してレコード盤にしていました。音質はあまりよくなく、収録時間も3分程度のものでした(いわゆるSPレコード)。これを機械式録音ということもあります。
そして電気技術が進歩し、1920年代半ばにはマイクロフォンによる集音と電気増幅によるカッティングとなりました。機械式録音に対して電気録音ともいいます。音質は格段にアップしますが、収録時間はレコード原盤サイズに依存することは変わらず、再生レコードのサイズ(SPレコード)に合わせるので同じく3分まででした。30年代には16インチという巨大な原盤にカッティングする録音機(トランスクリプション)も開発され、やや長時間の録音が可能になりました。40年代半ばには磁気録音方式が開発され、ワイヤーを媒体にしたワイヤーレコーダーと呼ばれる機材も登場しました。これはさらに長時間録音が可能で、またポータブルでしたのでこれで録音されたライヴ盤も存在します。そして40年代後半にはテープレコーダーが実用化されます。これで高音質化と長時間録音が可能になりました。
これら長時間録音機のおもな用途は放送用でした。なぜなら50年代前半まで、再生のための主要メディアはSP盤で、3分程度しか記録できませんでしたので、長時間録音してもレコードにはできなかったのです。そして50年代前半にLPレコードが普及し、長時間収録と高音質再生ができるようになって、やっと録音時間と再生時間のバランスがとれるようになります。
というわけで、話を最初に戻すと、40年代半ばのビ・バップ時代までは「機械式」「電気録音」「トランスクリプション」「ワイヤーレコーダー」「磁気テープ」など、さまざまな「マスター」が混在します。ですから音質も録音時間もいろいろです。音質はいいに越したことはありませんが、でも音質が悪くてもすばらしい内容の演奏はたくさんあるということは、説明するまでもありませんね。
基本的にはテープレコーダーの登場で録音機器の開発は一段落。もちろんトラック数が増えたり、ノイズを減らしたりと性能的にはどんどんよくなりますが、デジタル録音機の開発までは「磁気テープによる録音方式」には変わりありませんでした。
そして70年代後半になるとテープによる「デジタル録音機」が開発され、90年代にはコンピュータの進歩とともに録音にコンピュータを使うようになり、媒体がテープからハードディスクへと代わりました。もちろんデジタル・データが記録できればハードディスクでなくてもいいわけです。こうした「デジタル化」の著しい進歩によって、現在ではデジタル化以前に必ずあった、収録時間、音質(理論的には人間の可聴範囲をはるかに超えている)、収録トラック数の制限や、また媒体劣化による保存の問題もなくなりました。音のデジタル化は無制限・無限大の「器」を作るという「革命」となったのです。