Q120 ID zhianさんの質問 2014年9月1日
「フリー・ジャズ」って何? なにかちょっと怖いような感じもするんですが…。
zhianさん
いらっしゃいませ。
「フリー・ジャズ」というと、バンドのメンバーが決めごとなく、いわば好き勝手に演奏をしているような印象を持っている人が多いと思いますが、じつはそういう演奏だけを指しているわけではありません。けっこう誤解も多いようで、聴かず嫌いになっているようにも見受けられますね。「フリー・ジャズ」と呼ばれていても普通の(というのも変な表現ですが)ジャズと同じ感覚で聴いて楽しめるものはたくさんあります。
これは「フリー・ジャズ」という呼称が壁をつくっているのかもしれませんね。そもそも「フリー・ジャズ」は音楽の形式のことではありません。こういうことをやっているからフリー・ジャズだというのはないわけです。つまり、演奏者の数だけフリー・ジャズのやり方があるということです。ですからその言葉の解釈もいろいろです。でも「フリー・ジャズ」演奏者はジャズの範疇のひとつとして考えていることがほとんどだと思いますので、「ジャズからフリーになること」と考えがちですが、そうではなく、「それまでのジャズの形からフリーになる」「フリーにジャズをやる」という意味だと考えれば、少しはとっつきやすくなるのではないでしょうか。
オーネット・コールマン(アルト・サックス)が1960年に録音した、そのものズバリのタイトルの『フリー・ジャズ』(アトランティック)というアルバムがあります。タイトルには「オーネット・コールマン・ダブル・クァルテットによる集団即興演奏」と続いているように、このアルバムでは2つのクァルテットが左右に分かれ、全員が同時に演奏しています。オーネット・コールマンはアルト・サックスで、それに対するのがエリック・ドルフィーのバス・クラリネット。そこにトランペット、ベース、ドラムスが各2人いるわけです。全部で8人の集団即興演奏というと、ものすごい騒音を想像するかもしれませんが、音楽は冷静です。定型ビートがあって、冒頭にはテーマがあり、集団即興とはいえ基本的にソロは順番にまわし、ソロの交代時にはテーマを演奏しています。オリジナルのLPはAB面連続の1トラック37分ほどの演奏ですが、全員がソロをとるので冗長な感じはありません。
ジャズの歴史を振り返ると、それまでのジャズでは考えられなかったアプローチなので、発表当時はたいへんな衝撃だったと思います。まさに、「ジャズの伝統からフリーになったジャズ」だったと想像できます。でも、今の耳で聴けば「これのどこがフリー・ジャズなの?」と思うのではないでしょうか。伝統から離れたものが、今やまた新たな伝統になっているのですね。ジャズの歴史は脈々と繫がっているのです。

写真:『Free Jazz/A Collective Improvisation by The Ornette Coleman Double Quartet』(Atlantic)