Q90 ID igaguri_boyさんの質問 2012年3月1日
こないだオリヴァー・ネルソンの『ブルースの真実』というアルバムを、タイトルにひかれて買いました。でも元のタイトルは『The Blues and the Abstract Truth』というもので、これだけを見ていたらきっと手に取ることはなかったでしょう。で、思ったのですが、こういう日本語タイトルが付いているジャズ・アルバムは他にどんなのがありますか?
igaguri_boyさん
いらっしゃいませ。
海外のアルバムの日本盤タイトルは、今ではほとんどが原題のカタカナ表記になっていますが、マスターの記憶では80年代のアタマぐらいまではジャズに限らずこのような日本盤独自のタイトルは珍しくなかったと思います。中でも『ブルースの真実』は、「ザ・ブルース・アンド・ザ・アブストラクト・トゥルース」と呼んでいる人がいないくらいによく浸透している日本語タイトルです。おっしゃるとおり原題そのままより、われわれ日本人にとってはわかりやすく、内容にも合った傑作タイトルですね。そういった日本語のタイトルは日本のレコード会社が付けているわけですが、時には「?」なものも見受けられました。ちょっと調べて分類してみました。
【(ほぼ)直訳だけど日本語がいいな、というもの】
『至上の愛』ジョン・コルトレーン=『A Love Supreme』:超有名盤。イメージもばっちりの傑作日本盤タイトル。
『ジャズ来るべきもの』オーネット・コールマン=『The Shape of Jazz To Come』:鮮烈なイメージだね。
『明日が問題だ』オーネット・コールマン=『Tomorrow Is the Question』:なんか切迫した感じがいい。
『黒い聖者と罪ある女』チャールズ・ミンガス=『The Black Saint and the Sinner Lady』:深い意味ありげ。
『ジャズ・コーナーで会いましょう』アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ=『Meet Me at the Jazz Corner of the World』:楽しそう。
『心の瞳』キース・ジャレット=『Eyes of the Heart』:眼じゃなくて瞳だよね。
【原題とイメージは遠くない日本語タイトル】
『生と死の幻想』キース・ジャレット=『Death and the Flower』:ジャケットは花だけど。
『残氓(ざんぼう)』キース・ジャレット=『Surviver's Suit』:辞書が必要だ。
『虹の楽園』ジョー・サンプル=『Rainbow Seeker』:ほんとは楽園探索中。
『渚にて』ジョー・サンプル=『Carmel』:カーメルは米西海岸の渚の町。
『魂の兄弟たち」サンタナ&ジョン・マクラフリン=『Love Devotion Surrender」:ジャケットを見ればわかる。
『トランペット・ブルー』マイルス・デイヴィス=『Kind of Blue』:確かにブルーなトランペットではある。
【省略型】
『ウィチタ・フォールズ』パット・メセニー=『As Falls Wichita So Falls Wichita Falls』:…覚えられない。
【内容説明型】
『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』ヘレン・メリル=『Helen Merrill』:ジャケの表にはブラウンの名前はない。
『スタンダーズ・アンド・モア』チック・コリア=『Akoustic Band』:バンドといってもピアノ・トリオだから。
【原題と離れた日本語タイトル】
『幻祭夜話』ウェザー・リポート=『Tale Spinnin'』:他のアルバムと並べると浮くなあ。
『愛のカフェオーレ』パット・メセニー=『Off Ramp』:「オーレ」という曲は収録されているけど…。
『鯔背(いなせ)』ジョン・スコフィールド=『Still Warm』:なんじゃこりゃ?
アルバム・タイトルじゃなくて曲単位で見ればもっといろいろありますが、結局長い間に淘汰されて、残るものは残るし、そうでないものは原題カタカナに戻るというところですね。
余談ですが、カタカナの日本盤タイトルにも利点はあって、それは「読める」こと。パット・メセニーがポーランドの女性ヴォーカリストAnna Maria Jopekと共演した『Upojenie』というアルバムがありますが、輸入盤では読めなくて困ってました。日本盤が出たら「アンナ・マリア・ヨペク」の『ウポイエニェ』と書いてあってほっとしました。そういえば、やはりメセニーが共演した女性ヴォーカリストのSiljeも読めなかったなあ。国内盤に「セリエ」とあってびっくり。ノルウェーの人でした。ちなみにそれは「Tell Me Where You're Going」という曲なんですけど、日本盤タイトルは「やさしい光につつまれて」でした。