Q89 ID woodblockさんの質問 2012年2月1日
まだまだ寒い日が続きますが、早く春にならないかしら。気持ちだけでも春を先取りしたいので、「春のジャズ」を教えてください。
woodblockさん
いらっしゃいませ。
「春のジャズ」ですね。あんまりジャズと春って結びつかない感じもしますが、「春」がつくジャズ・スタンダードはいくつもあります。
*「ジョイ・スプリング」
天才夭折トランペッターのクリフォード・ブラウン作曲。1954年に録音されたインスト曲だけど(『クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ』)、タイトルどおりウキウキと心躍る春がイメージできる名曲。演奏はものすごく難しそうだけどね。ずっと後になってジョン・ヘンドリックスが歌詞を付け、マンハッタン・トランスファーがブラウンのソロのメロディーまで歌った。(『ヴォーカリーズ/マンハッタン・トランスファー』)
*「スプリング・イズ・ヒア」
ロレンツ・ハート作詞、リチャード・ロジャース作曲の1938年のミュージカル曲。歌詞を読むと、春なのに…という失恋の歌ということがわかる。明るい春ばかりではないのね。そう思うとビル・エヴァンス・トリオ『ポートレイト・イン・ジャズ』のヴァージョンは失恋の歌に聞こえてくるから不思議だ。
*「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」
ミシェル・ルグラン作曲の映画音楽。映画では監督が書いた歌詞がついていたが、アラン&マリリン・バーグマンが英語歌詞を付けて「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」となった。冬は必ず春になることを信じて…といった内容。これまたビル・エヴァンスの『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』がぐっときてしまう。
*「春の如く(It Might As Well Be Spring)」
これは春の歌といっていいのかどうか。歌詞には「今は春じゃないけど春みたい」とあるのね。ちょっと微妙なところ。オスカー・ハマースタイン2世作詞、リチャード・ロジャース作曲の1945年の映画音楽。「イパネマの娘」で知られるボサ・ノヴァのアストラッド・ジルベルトの歌はジャズ・ファンにも人気だね(『ゲッツ・オー・ゴー・ゴー』他)。お、エヴァンスは『ムーンビームス』でやっている。エヴァンスは春が好きなのか?(きっと違う。数多くのスタンダードを演奏しているということですね)
*「スウィング・スプリング」
マイルス・デイヴィスのオリジナル。『マイルス・デイヴィス・アンド・モダンジャズ・ジャイアンツ』に収録。スタンダードにはなっていないけれど、タイトルはまさに「春のジャズ」。マイルスのトランペットとミルト・ジャクソンのヴァイブラフォンがしつこくユニゾンするテーマが印象的なセッション風ナンバー。歌詞はないので、もしかして春じゃなくて「バネ」のことだったりして(笑)。
*「パリの四月」
E.Y.ハーバーグ作詞、ヴァーノン・デューク作曲の1932年のレヴュー曲。パリの春の風景を歌った曲。とにかくビッグネームによる名演がめじろ押しなのはやっぱり名曲ということなんだな。セロニアス・モンクのソロ・ピアノ『セロニアス・ヒムセルフ』、「One More Time!」と言ってエンディングをくり返すので有名な、カウント・ベイシー・オーケストラ『エイプリル・イン・パリ』、ウィズ・ストリングスの代表的名盤『エイプリル・イン・パリ/チャーリー・パーカー』、歌もトランペットも両方が主役の『サラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウン』あたりはぜひ聴いてください。
そうそう、同じ四月でも「四月の思い出」は春の歌じゃないからね(Q84参照)。