Q82 ID okazu001さんの質問 2011年7月1日
よく中古盤店やネットオークションで売っているレコードで「オリジナル盤」というのがありますが、あれはどういうものなのですか。だいたい高額ですけど…。
okazu001さん
いらっしゃいませ。
「オリジナル盤」、だいたい高いですよね。
ここでいう「オリジナル盤」レコードというのは、「最初に発売された盤」を指します。本でいうと「初版」に相当します。本の場合は2版(2刷)以降で内容が変る場合がありますが、レコードの場合は内容は変わることはほとんどありませんが、まず「音質」が変ります。レコードはマスターテープからカッティングなどいくつかの過程を経てスタンパー(印刷でいうところの版ですね)が作られ、それを使ってプレス製造されますが、それは劣化していくため一定枚数以上のプレスでは使うことができません。増産・再発時にはまたスタンパーを作り直すことになります(だからオリジナルは「ファースト・プレス」とも呼ばれています)。その際にエンジニアが替われば音質も変りますし、同じマスターテープではなくコピーのテープが使われたり(海外で製造する場合は最初から当然それ)、同じマスターテープでも年月が経つにつれ、テープそのものが劣化するなど、「オリジナル」とはどんどん変っていってしまうのです。
音質だけでなく、ジャケットもたいへん重要。骨董品的価値とも言えるんですが、再発されるときの多くはオリジナルの現物の複製として作られる(印刷の版は残っていないため)ので、当然クオリティがオリジナルに比べて劣ります。見識なく複製がくり返されるとどんどん質が悪くなります。例えば、ソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』は青バックに黒いシルエットと思っていませんか? オリジナルはちゃんとロリンズの顔が見える写真です。チャーリー・パーカー『バード・シンボルズ』はモノクロ2階調のイラストではなく、パーカーのポートレート写真です。いずれも複製がくり返されて劣化したものが、現在のイメージとして定着してしまった感があります。また、「再発ジャケット」という言葉があるように、再発の際にジャケットを新しいデザインで作り直すこともあります。こうなると「幻のオリジナル・ジャケット」なんてことにもなります。
このように「オリジナル盤」は音質、ジャケットの質が優れているものが多いのですが、それ以前にアーティスト、プロデューサーの意図がもっとも反映されているものとして、その存在には大きな価値があります。それらの要素からオリジナル盤はその「音楽」だけでなく、「物(ブツ)」としても大きな魅力を放っているわけですね。CDによるレコード復刻で「オリジナル・アートワーク完全復刻!」「オリジナル・マスターテープ使用!」など、「オリジナル」にこだわるのはこういう理由です。ですから「音源の再発」と「オリジナル・アルバムの復刻」はちょっと意味合いが異なるものと言えます。質問にある「高額」という部分は、希少性や人気(需要と供給の関係ね)でずいぶん変ってくるものですが、レコードマニアなら好きなアルバムは「オリジナル盤」で手にしてみたいですね。
ところで、もともとCDとして発売された「CDオリジナル盤」はほとんど珍重されていませんが、これはジャケットがLPレコードに比べて「ブツ」として魅力に乏しいということが大きいのでしょう。また、マスターテープ(現在ではテープはほとんど使われないけど)がデジタルだから、コピーしても理論的に音の劣化はないということもあります。でも近年では逆に「リマスター」と称して、再発の度にどんどん改変されているから、今後はCDの「オリジナル盤」も注目を集めたりしてね。

『Saxophone Colossus/ソニー・ロリンズ』(Prestige)

『Bird Symbols/チャーリー・パーカー』(Charlie Parker Records)