akiress519さん、いらっしゃいませ。
お子様のジャズ勉強の応援をしたいということでしょうか。親子でジャズ、いいですね。
さて、ジャズ演奏の勉強になる曲ということですが、楽器にかかわらず、ジャズ演奏をする人ならぜひ「知っておきたい曲」があります。サークルでは先輩からみっちり仕込まれるとは思いますが、演奏しない人でも知っておいて損はないでしょう。
ジャズが他の音楽と大きく異なる点のひとつは「アドリブ・ソロ=即興ソロ」をすることです。メロディを楽譜に書かれたとおりに演奏しても、それだけではジャズにならない。たとえば「ワルツ・フォー・デビー」のメロディを上手く弾けても、その先のアドリブ・ソロがうまくできなければジャズとしてはダメなわけです(もちろんビッグ・バンドではアンサンブルが重要だったりといろんな特徴がありますが、基本として)。そのアドリブのよりどころとなり、難易を決めるのが、その曲のコード進行です。ですからプレイヤーにとっては、演奏するにあたっては、曲のメロディよりもコード進行(形式)がまず重視されます。違うメロディでもコード進行が同じ曲はたくさんありますので、「聞く側」からすると違う曲も、「演奏する側」では意識としては同じだったりもします。
というわけで、その形式の基礎知識から。まずは「ブルース」。ここでいうブルースはイメージとしてのブルース(例えば歌謡曲の「伊勢佐木町ブルース」とかね)ではなく、12小節の定型コード進行のこと。基本的にはコード3つのシンプルな進行ですが、(ロックではそのままやりますが)ジャズの場合はそれを複雑に変えて演奏するのが一般的です。そして、その方法を知ることがジャズ演奏実践の第一歩となります。ブルースにはジャズ演奏に必要な基本的要素がたっぷり詰まっているのです。ブルースを知らなくてはジャズ・プレイヤーとは言えません(断言)。
曲でいうと、「ナウズ・ザ・タイム」(チャーリー・パーカー作曲)、「ストレート・ノー・チェイサー」(セロニアス・モンク作曲)ぐらいは知っておきたいところ。これらは初心者もよく演奏しますしね。この2曲はキイも同じブルースです。ですからアドリブはまったく同じやり方でオーケイということになります。違う曲ですが、視点によっては同じ曲でもあるわけです。
続いて「リズム・チェンジ」という32小節の定型コード進行。ジョージ・ガーシュウィン作曲の「アイ・ガット・リズム」のコード進行(コード・チェンジ)なので、「リズム・チェンジ」と呼ばれています。リズムが変わるするわけではないのね。これは「循環進行」とも言われます。ジャズでは「ブルース」と並ぶ基本の形式で、「リズム・チェンジ」を用いた曲はとてもたくさんあります。中では「オレオ」(ソニー・ロリンズ作曲)がダントツで有名ですね。プレイヤーには常識と言ってもいいでしょう。チャーリー・パーカー作曲の「アンソロポロジー」「デクスタリティ」なんかも知っていると、初心者なら一目置かれる、かな。
次のは形式の名称は特にないのですが、「ソー・ホワット」(マイルス・デイヴィス作曲)と「インプレッションズ」(ジョン・コルトレーン作曲)のパターン。この2曲は進行・構成が同じで、いわゆるモードという手法でソロをとるための曲。この手法は50年代末に「発明」されたものですが、今では「ブルース」「リズム・チェンジ」に並ぶジャズ演奏の基本と言えるものなので、知っておかねばなりません。説明は省きますが、前の2つとは進行の部分でまったく違うタイプというのは初心者の人にもわかると思います。まあ、そんなこと知らなくてもマイルス(『Kind Of Blue』)にしろコルトレーン(『Impressions』)にしろ、これらはモダン・ジャズの代名詞とも言える圧倒的にすばらしい演奏ですけどね。
基本の形式を押えたところで、ここからは「知っておきたい曲」をご紹介。
まずは「枯葉」。大学ジャズ研のC年(1年生のこと:死語かな)セッションでは昔から必ず演奏されているであろう基本中の基本曲。キャノンボール・アダレイ『Somethin' Else』収録のヴァージョンが定番のお手本。リスナーにも人気の曲ですが、プレイヤーにとってはジャズの基本的進行が多用されていたりと、基礎の勉強にとても適しているのです。
そして、「ジャイアント・ステップス」(ジョン・コルトレーン作曲)は難曲の代表として知っておきたいですね。難曲といってもメロディは全然難しくない。ところが、このめまぐるしく動くコード進行に合わせてアドリブをとるのがものすごく難しいのです。プレイヤーじゃなくても聴けば難しそうな感じはしますよね。いつかは「ジャイアント・ステップス」で自由にアドリブができるようになりたい、というのは多くのアマチュア・プレイヤーの願望です。よね?
アドリブ・ソロのためという観点から説明してきましたが、メロディの面白さを追求している曲もあります。例えば「ドナ・リー」。これはチャーリー・パーカーの作曲(マイルス・デイヴィス説もあり)ですが、それ以前にあった「インディアナ」という曲のコード進行を借用(?)しています。「インディアナ」は、特に変わった曲ではないのですが、同じ進行にもかかわらず、「ドナ・リー」はギクシャクと上下するメロディと独特のリズム・アクセント(ビ・バップというスタイル)がとても印象的。このメロディの演奏は初心者プレイヤーには手強く、メロディをさらえるだけで達成感があるぐらい。実はその先のアドリブを、そのメロディに負けないようにやるのはもっとたいへんなんだけどね。そして出来た人はより速く演奏するというのがこの曲。パーカーはそんなに速くは演奏しなかったけど、なぜかどんどんそういう方向に進んできたのね。メロディが重要という曲の代表として、覚えておきましょう。
その他には、「オール・ザ・シングス・ユー・アー」「ステラ・バイ・スターライト」「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」あたりかな。これらはコード進行が(「枯葉」に比べれば)ちょっと難しくて、アドリブのしがいがある曲という認識だね。これらは「スタンダード」と呼ばれているように多くの演奏が残されています。でも、もともと歌詞がある曲ですが、ヴォーカルでは多くはとり上げられていません。ヴォーカリストはあまりアドリブ・ソロをとらないからでしょうが、ヴォーカリストと楽器プレイヤーでは同じ「スタンダード」といっても明らかに素材を選ぶ傾向が違うということなんですね。 でも「枯葉」だけは例外。これはプレイヤー、シンガーともに基本中の基本曲であり、リスナーにも大人気。まさにキング・オブ・ジャズ・スタンダードといえる曲ですね。もともとシャンソンなんですが。
お父様もこの機会に楽器を手にしてみたらいかがですか。