neko7hikiさん、いらっしゃいませ。
ジャズはあらゆる音楽を「ネタ」にしていますが、ボブ・ディランの曲をジャズで演奏しているものは、(例えば同時代のビートルズに比べれば)多くはないですね。このキース・ジャレット・トリオの演奏が最も有名なものでしょう。この「マイ・バック・ペイジ」は、1968年録音のアルバム『Somewhere Before』(Vortex)に収録されているものですね。メンバーはキース(ピアノ)、チャーリー・ヘイデン(ベース)、ポール・モチアン(ドラムス)。後にここにデューイー・レッドマン(サックス)が加わって、通称アメリカン・クァルテットとなる顔ぶれです。かつてジャズ喫茶の人気盤としても知られていました。
ディランの音楽をジャズでとり上げたのはキースが最初というわけではなく、デューク・エリントンの65年録音『Ellington 65』(Reprise)では「風に吹かれて」をやっています。66年のルー・ドナルドソン『Blowin' In The Wind 』 (Cadet)というのもあります。
あまり知られていないと思いますが、ザ・ジーン・ノーマン・グループの、その名も『Dylan Jazz』(GNP)というアルバムがあります。65年録音で、タイトルどおりディランの曲をジャズで演奏したアルバムです。ジーン・ノーマンはGNPレーベル(クリフォード・ブラウンのアルバムで知られますね)のプロデューサーですが、演奏には参加していないという謎のバンド名なのですが、実はこれがなかなか興味深い顔ぶれ。プロデューサーがレオン・ラッセルとスナッフ・ギャレット、サックスがジム・ホーン、ギターがグレン・キャンベル、ドラムスがハル・ブレイン。ジャズ・ファンにはなじみが少ない名前かもしれませんが、当時のポップス界の大物たちが集まって、なぜかジャズをやっているのです。ポップス・ファンならディランの他にも楽しめるネタ満載の珍盤です(CD化はされていないようで、入手は難しいでしょうが)。
60年代は「ヒット曲のカヴァー」的な部分もあったのでしょうが、その後は違う観点からとり上げられることになります。アルト・サックス、クラリネット奏者のマイケル・ムーアの2000年録音『宝石と双眼鏡——ボブ・ディランの音楽』(究体音像製作所)では「フォース・タイム・アラウンド」「追憶のハイウェイ61」など11曲を演奏しています。管とベースとパーカッションという変則的な編成ということからもうかがい知れるように、単にメロディをなぞりましたというカヴァーにはなってないところが特徴です。
ビル・フリゼール(ギター)は96年作品『Have A Littele Faith』(Elektra/Nonesuch)では「女の如く」、2005年作品『East/West』(Nonesuch)では「はげしい雨が降る」を演奏。カサンドラ・ウィルソン(ヴォーカル)は2002年作品『 Belly Of The Sun』(Blue note)で「嵐からの隠れ場所」、2003年作品『 Glamoured』(Blue Note)で「レイ・レディ・レイ」を歌っています。好きな人は好きなのだな。