jfgkw058さん、いらっしゃいませ。
以前『スピーク・ライク・ア・チャイルド』を紹介したのは、けっこう直感的なお勧めだったんですけど(Q17)、気に入っていただけたようでうれしいです。
マスターはジャズを聴き始めてウン十年経つけど、振り返るとLPやCDのコレクションをどんどん増やしていった頃はとても楽しかったな。もちろん今だってジャズを聴くのは楽しいけど、知れば知るほど「新鮮な驚き」というのは少なくなってしまうのも事実だからね。最近は聴く前からウンチクばかり(笑)。さて、「自分好みを探す、次に聴く1枚」の選び方だけど、こんなのはどうかな。基本は、自分の好きな要素からアルバムを追いかけること。
1.好きなアーティストの、近い時期の作品を追う ハービー・ハンコックが好きになったなら、当然まずはハンコックの別のアルバムのチェックからだね。ハンコックのアルバムはとにかくたくさんあるけど、まず『スピーク~』(1968年)に近い時期のアルバムから聴いてみましょう。この前のアルバムは『処女航海』(ちょっとブランクがあって1965年)。これはハンコックの代表作の1枚で、モダン・ジャズの名盤ガイドのたぐいには必ず出てくるもの。『スピーク~』とはまた違う趣だけど、『スピーク~』が好きなら、きっと何の抵抗もないはず。でも、いきなり80年代のアルバム(例えば『フューチャー・ショック』)に行ってしまうと、「同名の別人?」と思ってしまうかも。ハンコックは特に幅広い音楽スタイルを持っていて、常にジャズ・シーンのリーダーシップをとってきた存在だから、ハンコックのリーダー・アルバムと参加アルバムを追いかけていくだけで、1960年代以降のジャズのスタイルはほとんど俯瞰できるんだけど、聴く順番は大事ですよ。どうぞ「好き」に近いところから(ついでに言うと、他に順番が大事なのはマイルス・デイヴィスね。この人も時期によって別人のよう)。
2.好きな曲を追う 『スピーク~』に入っている「ライオット」(ハンコック作曲)は、実はその前年にマイルス・デイヴィスの『ネフェルティティ』で演奏されていて、そこにはハンコックも参加している。同じ曲ではあるんだけど、『スピーク~』では脇役だったホーンがそこでは主役になっているだけでなく、曲全体のムードはかなり違う。また「ザ・ソーサラー」(ハンコック作曲)も同じく前年のマイルスの『ソーサラー』でやっていた。どちらもマイルス版はマイルスのカラーがすごく強く出ているのね。他には、タイトル曲の「スピーク・ライク・ア・チャイルド」(ハンコック作曲)はジャコ・パストリアス(ベース)がデビュー作『ジャコ・パストリアスの肖像』(1976年)でとり上げている。そこにもハンコックは参加していて、これまた違った雰囲気だ。こういった聴き比べは実におもしろいよ。同じ曲が、しかも作曲者が加わっていても、メンバーによってまるで違う表情を見せるというのは、ジャズのもっとも大きな面白さのひとつだからね。
3.好きな編成を追う 実は『スピーク~』の編成はとても珍しい。3本のホーンが入っているけど、楽器もアルト・フルートが入っていたりとかなり変わっているし、ホーンのソロがない。この一風変わったアンサンブルやサウンドが気に入ったということであれば、『スピーク~』の次のアルバム『ザ・プリズナー』をどうぞ。ここではこのアンサンブルをさらに発展させていて、ホーンの編成が大きくなり、ソロもとらせているけど、この独特な響きはもちろん共通している。『スピーク~』の陰に隠れがちだけど、おもしろいアルバムですよ。ユニークなだけに類似作品は他にはほとんどないようだけど、ずっと後、1996年にジョン・スコフィールド(ギター)が、明らかに『スピーク~』を意識したアルバム『クワイエット』を作っている。ギターだから全体のサウンドは違うけど、ホーンの編成とコンセプトがね。 まあ、こんなふうに聴いていくと、自分の好みが次第にはっきりわかってくるんじゃないかな。あとは「好きなものつながり」で、ということ。こういった踏み出し方で広げていくと、失敗も少ないだろうし、知識も系統的に増やしていける。カイドブックはあくまで「万人向け」の教科書であることをお忘れなく。どうぞ「自分だけの名盤」を探してください。