jazz-moeさん、いらっしゃいませ。
いつも「ジャズ検定」へのご訪問ありがとうございます。
この問題は、「アート・ペッパーの人気盤『ミーツ・ザ・リズム・セクション』の裏ジャケットにあるセッション写真で、ひとりだけ縞のシャツの人がいる。それは誰?」というものでした。このアルバムのオリジナル・ジャケットの裏面には英文解説とセッションの写真が掲載されており、それについての問題でしたが、ご指摘のようにCD商品によっては掲載されていないものがあり、「オリジナル・レコードの」と記載すべきものでした。お詫びして訂正させていただきます。ご指摘ありがとうございました。
さて、お詫びから始まってしまいましたが、今回は質問に合わせて《マスター流・裏ジャケの楽しみ方》を紹介させていただきます。
近年、紙ジャケット復刻など多くのCDが裏ジャケットを含めたオリジナル・デザインでリイシューされてますが、マスターは裏ジャケの写真やオリジナル・レコードの解説は、作品の一部だと思っています。つまり、その音楽と共にあるべきもの。それほど重要な情報がここには詰まっています。
LPレコードは1950年代の終りごろに登場しましたが、ジャズLPの多くは、ジャケットの裏側にけっこう長い解説と、時には小さな写真も載っていました。それらはレーベルごとに定型のフォーマットがあって、そこも表に負けないレーベルの顔といえるものでした。ポップスのアルバムにはこういうのは少ないですから、「解説とともに聴く」というのはジャズならではのことだと思います。もちろん解説がなくても音楽は楽しめるし、本来そうあるべきものでしょう。ただジャズの場合、オリジナルの解説があると音楽がもっと楽しめるんですね。アート・ペッパー『ミーツ・ザ・リズム・セクション』を例に見ていきましょう。
まず、解説本文。このアルバムの解説はプロデューサーのレスター・ケーニヒが書いています。何を聴かせたかったのかを、企画した本人が書いているんですから、これを見逃す手はないですよね。そしてペッパーの詳細なバイオグラフィーがあって、もちろんサイドメンの紹介もあります。また、このアルバムには「当日までペッパーはレコーディング・セッションのことを知らなかった」という有名な伝説があるのですが、そのオリジナル・ソースがここにあります。そして、それにもかかわらずセッションは5時間で終了、って10曲(LP時未発表曲含む)も録音しているのに!という情報も載ってます。知っているのと知らないのでは、聴き方変わってきませんか?
そして録音データ。1956年1月19日ロサンゼルス録音。リズム・セクション3人のホームグラウンドであるニューヨークは厳しい寒さの季節のはず。それに比べればロスは暖かかったでしょうから、演奏が明るいのはそのせい? また解説本文にはレコーディングは「土曜日の午後」とあります。ミュージシャンには関係ないのかもしれないけど、よくある平日深夜の録音とウィークエンドの昼間とじゃ出てくる音も違うと思いますが、どうでしょう。
そして写真。検定の問題にもありましたが、ベーシストのポール・チェンバースだけ縞のシャツを着ています。おしゃれなのね。若いことが一目でわかります。実際チェンバースだけがダントツに若い(ペッパー31歳、レッド・ガーランド34歳、フィリー・ジョー・ジョーンズ34歳、チェンバース21歳。これもほぼ解説にある)のです。ほら、ベースが、急に元気よく聴こえてきませんか。
ジャズは環境や状況のちょっとした変化で演奏が変わる、いわば生身の音楽なんです。ライナーノーツで天気について書かれたのは読んだことがないけど、吹雪と快晴じゃ、出て来る音はきっと違う。だから情報は、あればあるほど想像力を刺激してくれる、つまり音楽をさまざまな角度で楽しめるということ。ちょっと想像し過ぎかなあ...。
近頃はジャズも1曲ずつダウンロードして聴けるし、コンピレーション盤もたくさんあってポップスのシングル的な聴き方もされていますが、それには解説がついていない。レコードメーカーのみなさん、こういう楽しみがありますので、CDにはなるべくオリジナルのデータと解説を付けてくださいね。