- Q51. ID：jazz_orangeさんの質問
- ジャズ初心者です。「ジャズの魅力は即興演奏だ」と友達に言われましたが、この意味がわかりません。どこがどういうふうに即興なのですか？
jazz_orangeさん、いらっしゃいませ。
お友達が言う通り、即興演奏はジャズの大きな魅力のひとつです。 まず、マスターが体験した実話ですが、あるジャズのコンサートでピアニストが長い長いソロを演奏した時、マスターの横に座っていた人が連れの人に「なんであんなに長く演奏できるの？」というと、連れの人は「楽譜に書いてあるんでしょ」と言ったんです。確かにピアノの上には譜面がありました。でも、これは明らかに認識違いです。楽譜にはそのミュージシャンが弾いていた音は書かれてはいないでしょう。それが「即興演奏」です。
「即興」というと難解な印象を受けますが、「アドリブ」（語源はラテン語）、「インプロヴィゼーション」（英語）とも呼ばれます。演奏する人にとってはそれらの方が一般的かな。では、どういうものなのかを、技術的なことは省いて、ごく簡単に説明しましょう。
一般的に、小編成のジャズ・グループでは歌（曲）のメロディ（例えば1コーラス32小節）とコード・ネーム（Cm／G7といったやつです）が書かれただけのシンプルな楽譜を見て演奏します。例えば有名な「枯葉」だったら、ヴォーカルやメインのプレイヤーが、まず「枯葉よ～」ってあの有名なメロディ（これを「テーマ」といいます）を1コーラス歌い（吹き）ます。これ32小節です。その後が「即興」パートになり、ソロイスト（ソリスト）の見せ場となります。即興パートは、テーマと同じコード進行の32小節の繰り返しに乗って自由に即興演奏するわけです。サックス次はピアノが...とソロを回して最後にまたヴォーカルが「枯葉よ～」と32小節テーマを歌って終り、というのが一般的な構成です。
さて、どうやって即興するかですが、即興といってもちゃんと演奏のセオリーがあり、完全にその場でゼロから作り出しているというわけではありません。が、あらかじめ譜面に書かれているものではありません。完全な即興というものももちろんありますが、多くの場合は演奏者が覚えているさまざまなフレイズの組み合せと言えるでしょう。「組み合せ」のどこが即興なのかと思われるかもしれませんが、単純なものではありません。そのフレイズのパーツを「言葉」「語彙」だと考えるとわかりやすいでしょう。その時その時で思ったことを即座に話して表現するというのは、その人の持っている語彙の「組み合せ」によるものですが、その組合せは無限にあります。同じことを話すにしても無口な人もいれば饒舌な人もいるように、表現方法はさまざまです。同じことを聞かれても、その返答は状況とか相手によって全く変わり、同じ返事をすることはない。その場で新しい表現が生まれることもあります。つまり、即興は「ジャズの言語で、その場で話をする」というようなもの。ですから即興はその演奏者の「個性」そのものと言えましょう。
では、ソロイスト以外の人は何をやっているかというと、これもやっぱり「即興」で伴奏をしているんです。最初に書いたように、楽譜にはベースの4分音符の伴奏（ボンボンボンボンってやつです。ベース・ランニングといいます）や、ピアノの伴奏コードの音符は書かれていません。もちろんこれにも基本的な演奏法とルールがありますが、テーマでもソロ中でもその場その場で、いろんな技を使いつつ、ソロイストの演奏に対応しながら伴奏しているわけです。これはまさにソロイストとの「会話」です。たくさん語彙があれば、いろんな話ができるけど、言語の種類が違うと会話ができない時もあったりしますね。もちろん、口をきかないというのもひとつの対応法ですから、それもアリです。
つまり、ジャズは自由度がとても高い音楽なんです。何をやってもいいから個性がはっきりと出るし、出せる。そこがジャズのおもしろいところなのです（なお、ビッグバンドと呼ばれる大編成グループはまたやり方が違います）。
あの長い演奏をしていたピアニストが見ていたのは、テーマのメロディとコード・ネームが書かれただけの（例えば32小節とかの）譜面だったと思います。だからこそ延々20分のアドリブができるわけで、逆に全部書かれた音符を弾いていたのなら、その譜面はピアノに乗り切らなかったことでしょう。
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