
ジョン・コルトレーンの名曲(5)
『インプレッションズ(Impressions)』
「モード」と言われますが…
コルトレーンが作曲した楽曲は、いわゆる「歌もの」とは異なるものが多い、つまり常套的な構成や、そこにのせるメロディで勝負するようなものが少ないように思います。では何を目的としているのかというと、その曲にアドリブ(即興演奏)をどうのせるかということ。要するに、コルトレーンにとって曲とはアドリブのための素材であり枠組みであるということなんですね。「ジャイアント・ステップス」はコード展開の理論的追求から生まれたものだったことは前回紹介しましたが、この「インプレッションズ」は「ジャイアント・ステップス」の対極にある手法、いわゆる「モード手法」を用いたアドリブのための曲です。
まあ、その曲にどんな手法でアドリブをとるかというのはミュージシャンの都合であって、リスナーはどんな手法であれ、その演奏がおもしろいと思えるかどうかがすべてです。ですからモードだなんだということは考えなくていいことなんですけど、この曲が「ジャイアント・ステップス」とは明らかにムードが違うことは感じられると思います。「ジャイアント・ステップス」のアドリブ・フレイズは、忙しくてギザギザしたアップダウンの動きで空間いっぱいに音を詰め込んでいくようですが、「インプレッションズ」は、音があふれ出てくるのは同じですが(これがコルトレーンの特徴のひとつ)、枠組みは開放的でどこまでもフレイズが続いていくような感じを受けませんか? ジャズの鑑賞はどうもそういった音楽理論的なことにこだわりすぎるきらいがありますが、このムードの違いが感じられれば、コルトレーンの狙いはちゃんと理解できているといえるでしょう。ちなみにこの曲はマイルス・デイヴィスの「ソー・ホワット」と曲の構造はまったく同じですが、マイルスとはまるで違うアプローチですね(って、音楽理論的なこと書いてしまいましたが…)。
写真2:ジョン・コルトレーン『Impressions』(Impulse)