
マイルス・デイヴィスの名曲(1)
『ソー・ホワット(So What)』
濃厚に漂うマイルスの「雰囲気」
この曲はジャズ史に燦然と光り輝く名盤『カインド・オブ・ブルー』(1959年録音)の冒頭に収録されています。曲とはいえ、短いリフ(フレーズの繰り返し)だけで、曲というより、アドリブのきっかけを作るサインのような感じですね。メロディの美しさとか、いわゆる「歌もの」とはもともとの考えが全く違うところがこの曲のおもしろいところです。では、マイルスは何を考えてこの曲を作ったのでしょう。
この曲は、「モード」というジャズの新しいアドリブ手法を取り入れたものとしても知られています。でもミュージシャンはともかく、一般リスナーはそんなことは考えませんし、いくら手法が優れていたとしても、音楽が面白くなければ意味がありません。それは手段にすぎないわけで、この曲を作ったマイルスの目的は、「強烈なマイルスらしさを出す」ことだったと思います。
『カインド・オブ・ブルー』はこれまでに世界でなんと1000万枚以上も売れたそうです。ジャズとしてはダントツに知られ、愛されているアルバムですが、その理由はやはりそこにマイルスらしさ、マイルスにしかない雰囲気が濃厚に漂っていることをリスナーが感じたからこそなのでしょう。カヴァー・ヴァージョンはたくさんありますが、どれを聴いてもそこにマイルスの影を感じてしまうくらい、この演奏は強烈な印象を残しています。曲名はマイルスの口癖「だから、何だ?」からきているということですが、これもいかにもマイルスらしいですね。
写真1:マイルス・デイヴィス『カインド・オブ・ブルー』(Columbia)