
「ココ」その1
『On Savoy vol.1/チャーリー・パーカー』
これぞビ・バップ
これは「ビ・バップ」と呼ばれるジャズのスタイルの典型なのだが、初めて聴いた人には何が何だかわからない演奏かもしれない。チャーリー・パーカーのアルト・サックスとディジー・ガレスピーのトランペットが掛け合いのテーマを吹いたかと思うと、ものすごいスピードでソロが始まる。それはまさにあふれ出る音の洪水。あっけにとられているうちに終わってしまう猛烈な勢いなのだが、このソロが「即興」で吹かれているなんて信じられないかもしれない。でもこれが書かれたものだったとしても、誰もこんな勢いでサックスを吹けはしないだろう。これがジャズの即興演奏に革命を起こしたパーカーの天才。ひとたびこの魅力にはまるともう抜け出せない。
このアルバムには「ココ」がもう1テイク入っているが、それは演奏が始まってすぐにプロデューサーが口笛を吹いて演奏を止めてしまったもの。そこでは「ココ」のテーマのあとに、パーカーは「チェロキー」のテーマを吹いているのだ。じつはこの曲のコード進行(曲の枠組み)は「チェロキー」を借りたもの。つまり、「ココ」という曲は「チェロキー」のイントロとして演奏されたものだったのだが、プロデューサーは演奏を中断させ、次のテイクではテーマはそのイントロだけを吹かせ、ソロに入らせた。イントロを「ココ」という曲にしてしまったというわけだ。ビ・バップはアドリブが勝負どころだから、まあテーマはなんだっていいということなのだ。冗長な「チェロキー」を吹かなかったことで演奏は凝縮し、ますますアドリブの切れ味が際立ったと考えると、プロデューサーは的確な判断を下したと思えるが、じつは「チェロキー」の著作権使用料を払うことを嫌ったからと伝えられている。でも「ココ」の著作権使用料は払うことになるのだから、これは誤りとも思うがどうか。1945年録音。
写真1:『On Savoy vol.1/チャーリー・パーカー』(Savoy)