
「ナルディス」その3
『Music of Bill Evans/クロノス・クァルテット』
20本の弦で奏でるエヴァンスの世界
ジャズや現代音楽を弦楽四重奏で演奏するクロノス・クァルテットの、ビル・エヴァンス愛奏曲集の中に収録。「ナルディス」のテーマは弦楽四重奏にぴったりはまる。このカウンター・メロディはもともと弦楽四重奏のために書かれているのではないかというほどの印象だ。
この曲ではエヴァンスと共演したエディ・ゴメス(ベース)がゲスト参加し(全部弦楽器だけの5人で、弦は合計20本だ)、たっぷりとソロをとっている。もちろん先発ソロ。エヴァンスのお約束のアレンジが踏襲されている。エヴァンス曲集ならこうでなければ、と思っていると、それに続くヴァイオリンのソロに驚いた。このメロディはアドリブではなく、『モントルー』でのエヴァンスのアドリブ・ソロ・フレイズの引用ではないか。ヴァイオリンがそのメロディを弾き、他がそのフレイズにからむアンサンブルを奏でるという手の込んだアレンジが施されている。つまり、テーマのみならず、エヴァンスのソロまでも楽曲として捉えているわけで、エヴァンスのアドリブは、まるであらかじめ書かれた楽曲のように完成されているということを改めて感じさせる。アドリブは瞬間の作曲なのだな。
写真3:『Music of Bill Evans/クロノス・クァルテット』(Landmark)