
「ナルディス」その2
『At The Montreux Jazz Festival/ビル・エヴァンス』
絶好調トリオの気合い入りまくりライヴ
1968年、アルバム・タイトルどおりスイスのモントルー・ジャズ・フェスティヴァルのライヴ。ここでのエヴァンス・トリオはとても躍動的だ。トリオ初演の『エクスプロレイションズ』から7年ほど後、すっかり愛奏曲となっていた「ナルディス」のもっとも力強いヴァージョンがこれだろう。繊細なエヴァンスしか知らない人には大きな驚きになるのではないかな。初演の静かなムードとはかなり異なり、冷たく燃え上がる印象だ。その理由は共演のふたりにある。
ベースのエディ・ゴメスは66年に21歳でエヴァンス・トリオに加入。そして77年まで活動をともにした歴代エヴァンス・トリオ最長共演者。相性がよかったのだ。このモントルーでのライヴの時はまさに絶好調といっていい時期。ここでも「ナルディス」はお約束アレンジといえる、ベース・ソロの先発だが、とても気合いと力の入ったソロが聴ける。力というのは気持ちじゃなくて、文字通りの力。弾く指に力が入っているのが感じられる。それを受けてのエヴァンスもガツンガツンとピアノを叩く。ゴメスはソロの力強さを継続しつつのバッキングだし、トリオ新加入となったジャック・ディジョネットのドラムスのキレ味の鋭さもすごい。これはエヴァンスも全力にならざるを得ないというところ。力を入れすぎたか(?)、ライヴにしては比較的短めのソロだが、これで充分という濃さだ。でも実はこの後のドラム・ソロがこの演奏のクライマックスなのだ。ディジョネットのここでのソロは、フレーズとして派手さはなく、むしろ地味な感じともいえるものだけれど、内に秘めた力というか、緊張感が尋常じゃない。文字通り空気が張りつめている。聴いていて、もう緊張も限界と思う頃合いでエヴァンスとゴメスが入ってエンド・テーマ、というタイミングも絶妙。すばらしいトリオなんだけど、ディジョネットはこの後すぐにマイルス・デイヴィスのバンドに引き抜かれ、エヴァンスとの共演記録はこの1枚となってしまったのが残念。
写真2:『At The Montreux Jazz Festival/ビル・エヴァンス』(Verve)