
「ナルディス」その1
『Portrait of Cannonball/キャノンボール・アダレイ』
いい曲は自分のものに
アルト・サックス奏者キャノンボール・アダレイの『ポートレイト・オブ・キャノンボール』は作品としてはまあ地味である。この録音が行われた1958年、キャノンボールはマイルス・デイヴィス・グループに在籍中で、同グループで『マイルストーンズ』や『サムシン・エルス』を録音している。それら名盤の陰に隠れてしまった感じもあるが、そこに、名曲「ナルディス(ナーディス)」の初演が収録されているということは有名だ。
この曲は後にビル・エヴァンス(ピアノ)が生涯にわたって愛奏し、とてもよく知られるようになるが、ここにはそのエヴァンスがサイドマンとして参加している。キャノンボールらしからぬ、ちょっと妖しい感じの演奏は悪くないが、アレンジらしきものはほとんどなく、フロントのキャノンボールとブルー・ミッチェル(トランペット)はまったくストレートにメロディを吹いているだけだ。エヴァンス・ヴァージョンの、テーマ・メロディの一部となっているカウンター・メロディもちょっとだけ聴けるが、これはエヴァンスの手癖、あるいはその場のヘッド・アレンジだったような感じ。まあ、この場はレコーディング・セッションだったので、無難にこなしたというところだろうが、エヴァンスにはこの曲のよさがよくわかっていたのだ。エヴァンスは61年録音のリーダー作『エクスプロレイションズ』でとり上げることになるが、きっと隠し玉としてこっそりと、大切に練り上げていたに違いない。ちなみにこの曲はマイルス・デイヴィスが作曲し、キャノンボールにプレゼントしたらしいが、マイルス本人の演奏は残されていない。マイルスのミュート・トランペットの音を想像すると、けっこうマイルスらしい雰囲気の曲になるとも思うが、どうかな。なんていろんな想像をしながら聴いていると、また繰り返し聴きたくなる。やっぱり名曲・名演なんだな。
写真1:『Portrait of Cannonball/キャノンボール・アダレイ』(Riverside)