
「いつか王子様が」その1
『Someday My Prince Will Come/マイルス・デイヴィス』
これはマイルスの「のろけ」アルバムだったのか?
「王子様」で最も有名かつ名演と言えば、このマイルスのアルバムのヴァージョン。ベースの同音連打が印象的なイントロで始まり、マイルスのミュート・トランペットが、まるで声で歌うように可憐なメロディーを奏でる。ピアノのウィントン・ケリーもテナー・サックスのハンク・モブレーもそのムードをうまく引き継ぎ、マイルスのグループにしては珍しいほど(?)肩の凝らない演奏となっている。と思いきや、最後に存在感あり過ぎのテナー・サックスがソロをとる。ちょっとムード違うんじゃない?という気もしないでもないけど、やっぱジャズって骨がないとなあ…となる。このふたりめのテナー・サックスはジョン・コルトレーン。コルトレーンはすでにマイルスのグループを離れていましたが、ちょうど録音スタジオ近くのアポロ劇場に出演中で、そのセットの合間にスタジオに来て飛び入り参加したそうです。ハンク・モブレーにはちょっと気の毒なセッションとなりましたけど、そのコルトレーンのソロがすばらしいから、やっぱり採用しちゃうよね。今ではCDのボーナス・トラックでコルトレーンが参加していないトラックも聴ける。これはこれでありだけど、やはりコルトレーンと比べると…。彼を育てたマイルスも誇りなんだろうな。1961年3月録音。ところで、アルバム・ジャケットに写っている美女は、当時のマイルス夫人であるフランシス・テイラー。当時大人気のダンサーです。収録曲には彼女のために書いたという「プフランシング」まであります。「オレは彼女のプリンスだから、彼女をジャケットにしてもいいだろう」ってくだりがマイルス自叙伝にあります(これ以前にも「フラン・ダンス」という曲も書いてるし、この後、フランシスはマイルスのアルバム・ジャケットにたびたび登場します)。で、ふと思ったのだけど、もしかしてマイルスは、ぞっこんのフランシスのためにこのアルバムを作ったのか?と。作品系列からするとちょっと異色にも思えるしね。実はこの曲は…(「その3」参照)。
写真1:『Someday My Prince Will Come/マイルス・デイヴィス』(Sony)