
「いつか王子様が」その3
『Dave Digs Disney/デイヴ・ブルーベック・クァルテット』
ディズニーだってジャズになる、よね?という時代
「王子様」のオリジナルは、1937年のディズニー・アニメ映画「白雪姫」の挿入歌。白雪姫がかわいらしく歌うんだよね。デイヴ・ブルーベック(ピアノ)がこの曲をとり上げたのは映画の公開から20年後の57年のこと。ブルーベックはポール・デスモンド(アルト・サックス)を含むクァルテットによる『Dave Digs Disney』で発表。この前にも「王子様」をジャズでとり上げた人はいたのかもしれないけど、有名になったものではこれが最初なんじゃないかな。アルバムはタイトルどおり、ディズニー曲集。「不思議の国のアリス」や「ハイ・ホー」、「星に願いを」(これは「ピノキオ」の挿入歌)なんかも入っている。今ではアニメのジャズ・カヴァーはたくさんあるけど、当時はとても珍しかったはず。しかもジャケットはディズニー・キャラクター満載だものね。で、肝心の演奏だけど、イントロ風にソロ・ピアノでメロディを1コーラス弾いて、続くデスモンドのソロから全員が入ってくる。でも、そこからは実にオーソドックスなジャズで、「王子様」じゃなくても成り立っちゃう感じがちょっと残念ではありますけど。それはさておき、今では「王子様」も「アリス」も「ピノキオ」もジャズ・スタンダードになっていることを考えると、このアルバム企画はとても優れていたものだったわけで、これがなければマイルスもエヴァンスも録音していなかったかも。ちなみに作曲のフランク・チャーチルは「バンビ」や「ピーターバン」の曲も書いているディズニー御用達の作曲家。だけどその2曲はジャズではほとんどとり上げられないから、やっぱり向き不向きというのはあるんだろうな。ついでに余談。この曲はタイトルや白雪姫のイメージから、女の子が歌う歌だと思われているでしょうが、実は2番の歌詞は男性が歌う内容なんです。だからマイルスがフランシスに向かって吹くのもありだし、コミック『坂道のアポロン』(作・小玉ユキ/小学館刊)で、主人公の高校生ジャズ・ピアニスト(風貌はエヴァンス似)が、好きな女性のためにこの曲を弾くというのもありなんですね(知らない人ごめんなさい)。
写真3:『Dave Digs Disney/デイヴ・ブルーベック・クァルテット』(Sony)