「ステラ・バイ・スターライト」その1
『My Funny Valentine/マイルス・デイヴィス』
叫ぶ観客も共演
「ステラ・バイ・スターライト(星影のステラ)」は、ヴィクター・ヤングが作曲した1944年のアメリカ映画『The Uninvited(呪いの家)』のテーマ曲。映画はホラーものだったらしいが、映画の2年後にネッド・ワシントンがロマンティックな歌詞を付け、ハリー・ジェイムスやフランク・シナトラらが取り上げてよく知られるようになった。有名ヴァージョンは数々あるが、まず聴いておきたいのはマイルス・デイヴィス(トランペット)・クインテット1964年の演奏。ハービー・ハンコック(ピアノ)のイントロに導かれ、マイルスは力は入っているが抑制のきいたバラッド・プレイを聴かせる。これぞハードボイルド・マイルス。張りつめる緊張感。そしてテーマの後半、観客席の男がいいタイミングで「い”ぁ”〜」っと叫ぶ。演奏はその後ドラムスが入ってきてイン・テンポでアドリブに突入、マイルスは熱く燃え上がっていく…。もともとそういうアレンジなのだろうが、この叫び声が「熱さ」の引き金になっているように聴こえるけど、どうだろう? この声はマイルスの耳にも入っているだろうから、無関係ではないはず。いずれにしてもリスナーの立場からすると、この名演は絶対「叫び声込み」だよね。実際にこんな叫び声を上げてみたい気もするけど、まあレコードでやめておこう(すごい度胸だな)。ちなみにこの演奏は、一般的な「ステラ」の構成・コード進行とは異なっている。
写真1:『My Funny Valentine/マイルス・デイヴィス』(Sony)